山田方谷先生に学ぶ経営改革の在り方
会社の組織風土を改革したいけど、どうやって改革したら良いのか?何か手本になるような考え方はないのか?
こんな悩みを抱える経営者は多いと思います。
本記事の内容
・社員が能動的に動かない状態とは
・温故知新!山田方谷先生に学ぶ
・ビジョンが社員を動かす(ビジョンに共感されないと優秀な社員が辞めていく)
・ビジョンの共感があるからこそ、目の前の課題にも取り組める
・まとめ
本記事の信頼性
・携帯電話販売店の責任者として、赤字続きだった携帯ショップを1年で黒字化した。
・携帯電話販売代理店15店の運営支援を行なった。
・介護事業者の運営支援で赤字事業者を1年で黒字化の目途をつけた
この記事を書いている私は、中小企業診断士として株式会社フィールドマネジメントを設立して、組織の生産性を高めるお手伝いしています。多くの経営者が悩む、「社員の生産性向上」や「チームワーク」のつくりかたの一つの参考になると思います。
私は、中小企業診断士として独立する前は大手移動体通信会社に勤務していました。あるとき人事異動で直営店舗の携帯電話ショップの責任者に赴任することになり、万年赤字運営に陥っていた店舗を早期に黒字化することが大命題でした。結果的には1年後に収支トントンまで改善し、2年後には見事黒字化を達成することができました。では、収支改善するまでに私が何をやったのかについて、ご紹介したいと思います。
組織改革は人改革です。人を動かすためには普遍の真理があります。それは今も昔も変わりません。普遍の真理を学び、実践すれば人は動き、人が動けば組織は変わり、業績が変わります。そもそも業績が悪い職場はどのような状況になっているのでしょうか?また、社員はどのような状態になっているのでしょうか・・・?
おそらく、社員が能動的に動いている状況にはないと思います。
目次
社員が能動的に動かない状態とは
・リーダーの強い信念が見えない。
・リーダーが言っていることとやることの言動が一致していない
・リーダーと社員の間に信頼関係がない
・社員のモラルが低下し、目標を追う意識が低下している
・リーダーは指示命令するだけで、社員に考えさせ、行動させない
・社員の失敗を叱責するだけで、失敗した背景まで考えない
上記は一例に過ぎませんが、このような状態にあてはまっているものがあれば社員が能動的に動くことはありません。
温故知新!山田方谷先生に学ぶ
組織改革と人材育成で成功した人物は過去にも多くいます。その中でも山田方谷(1805~1877)先生は、幕末の備中松山藩(現在の岡山県高梁市)で藩の財政改革を行ない、民衆の生活を安定させることに成功させた人物です。物ごとの本質には古い、新しいはありません。山田方谷先生の考え方には、示唆に富むものが多く、現代の経営に非常に役立つと思います。
「義を明らかにして、利を計らず」、「利は義の和なり」
山田方谷先生の理財論の中で書かれている有名な言葉です。以下に引用します。
義と利との区別をつけるのが重要なことです。政道を整備して政令を明確にするのは義のことです。飢餓と死亡とを逃れようとするのは利のことです。君子は義を明らかにして利を計らないものです。ただ政道を整備して政令を明確にするのみです。また、利は義の和なりと言います。政道が整備し政令が明確になるならば、飢餓と死亡とは免れないことはありません。
“義”と“利”との区別をつけることが重要だと言うことです。つまり、君子は“義”の道筋をはっきりさせるだけであって、自分自身の“利”を求めることはしないのだ。また、政治の道筋がはっきりすれば、その結果として、飢え死にすることはないのだ、と主張されています。国の基本が整えば餓死する人などいないということです。
出典:「入門 山田方谷」 明徳出版社(平成19年)
現代の経営に置き換えて考えてみると、リーダーは、自分の信念に基づくビジョン(将来像)を掲げて、社員に共感を得るため、なぜそのビジョンを掲げるか、その背景をしっかり説明し会社のビジョンを自分ごとになるように努力をします。ビジョンの共感を得たら、そのビジョンを達成するために具体的な仕事や目標、社員のミッションを明示し道筋をはっきりさせます。こうしてビジョンの共感を得て、仕事や目標、ミッションをはっきりさせれば、会社の売上高や利益は後からついてくるものである、ということになります。
「利を計らず」と言っていますが、当然“利”を得ることを目的としています。そうでなければ藩がつぶれてしまいます。ただ最初から“利”を追い求めてしまうと藩士や民衆が自分勝手に自分だけの“利”求めていくようになり、モラルが低下し足の引っ張り合いが始まり目的が達成できません。利益を求めるのであれば、遠回りに見えても社員の心を一つにすることから始めていかなければなりません。結果的にはそれが近道であるということです。
ビジョンが社員を動かす(ビジョンに共感されないと優秀な社員が辞めていく)
ビジョンの役割ついてもう少し説明します。組織を歯車に例えると、経営者は大きな歯車を回して売上や利益を生み出したいと考えています。一方で社員は自分達の目の前の小さな歯車を回すことに専念しています。本来ならば社員が回した小さな歯車の力が大きな歯車に伝わり、売上や利益に直結することになりますが、歯車のかみ合わせが悪かったり、回し方に問題があったりすると、いくら小さい歯車を回しても売上や利益につながりません。社員の生産性が低い職場でよくある、リーダーが「やれ!やれ!」と言っても空回りしているだけで売上や利益につながらない状態です。しかも優秀な社員ほど職場から離れて行きます。なぜなら、このような職場ではモチベーションの維持が難しいからです。
では、なぜこのような状態が生まれるのでしょうか?
それは、社員とリーダーの間にギャップがあり、歯車が上手く噛み合っていないからです。社員は、目の前の仕事をこなすだけで満足しています。目の前の小さな歯車しか見えてないため、自分の歯車が会社全体の売上や利益(大きな歯車)にどのように影響しているかを理解しようとしていません。むしろ、それはリーダーが考えることだと考え、他人事で非常に視野が狭い状態にあります。
一方でリーダーは、「売上や利益があがるように動いてほしい」、「自分で考えて能動的に動いてほしい」と目先の売上や利益の大きな歯車ばかりを見ています。これがリーダーと社員との間のギャップです。このギャップの解消の役割をするものがビジョンの共感です。
ビジョンの共感とは、単なるビジョンを掲げることではありません。ビジョンを掲げて社員の心に働きかけるものでなければなりません。単に売上〇〇円以上や利益〇〇円以上を目指す!とかシェア〇〇%奪取!とかでは共感されにくくなります。なぜなら売上や利益という数字だけで社員の心がワクワクしにくいからです。人間は自分の夢にワクワクしますが、会社の売上や利益では自分の夢に繋がらないからです。
ビジョンの共感を得るためには、ビジョンの中に“義”を含めることです。“義”とは、社員になぜこの会社で働いてほしいのか?働いてどのような人材になってほしいのか?という問い答えることです。そうすることで社員が働く意味を自分なりに見つけ出し、将来どういう人間になりたいかという目標をぼんやりでもイメージできるようになります。その自分の目標(なりたい姿)に近づくためにこの会社で働く意味があると判断できた時、会社ビジョンが自分(社員)の目標になります。こうなれば、社員の働くモチベーションが高くなり、この職場で働きたいという思いも強く、能動的に物事を考えられるようになります。
ビジョンの共感があるからこそ、ゴールにフォーカスできるようになる
モチベーションの低い職場では、売上や利益を上げるように求めても、目の前の小さい歯車を淡々と回すだけで生産性向上につながらない状態になっています。しかし、ビジョンの共感が出来ていれば違います。ビジョンに近づきたいという大きな目標があるため、そのために何をする必要があるのかを真剣に考えるようになります。これが山田方谷先生の易経から引用した「利は義の和である」のことになります。“利”は“義”をはっきりさせることで得られるという意味です。ビジョンの共感があれば、目の前の課題(ゴールを奪う)に真剣に取り組むことができ、結果的に業績が向上するということです。
ビジョン(義)を明らかにして、業績(売上・利益)を計らず
まとめ
「義を明らかにして利を計らず」は現代の経営の根幹だと思います。売上や利益を生み出すことが経営目標ですが、でもその前になぜ会社経営するのか?どのような会社にしたいのか?という目的を明らかにしないと、社員が働く意義を見いだせません。リーダーは、大きな歯車ばかり見るのではなく、小さな歯車を回す社員に将来の道筋をはっきり示すことが大事であるということです。
最初からゴールを狙えといっても何のために戦っているのか分からない状態では、選手個々は自分のために頑張るのみでチームワークは機能しません。チームワークがなければ、一人でドリブルするだけではゴールを奪うことはできません。ビジョンの共感があれば選手が協力して一つのゴールにフォーカスしチームワークを生み出し、能動的に考えゴールを目指します。こうした考えが組織に必要ではないでしょうか。