「印刷会社の駆け込み寺」を実現。新規事業で行うのは想いの継承が織りなす印刷業界への恩返し。
株式会社ゴプス
広島エリアを中心に主に印刷会社へ印刷用機械及び資材の販売を行っている株式会社ゴプス。
新たな機材であるデジタル印刷機の導入を果たし「印刷会社の駆け込み寺」の開設を実現させた。この事業は印刷会社が取り扱いづらい極小ロットに目を向け、印刷会社を顧客とする新しいビジネスモデルである。
「印刷会社への恩返し」の想いで新たな取り組みへ挑む福田宏社長、児玉勝治常務に機械の導入に至ったその経緯やこれからの展望についてお話を伺った。

(画像中央)株式会社ゴプス 取締役社長 福田様
(画像右)株式会社フィールドマネジメント 榎
印刷業界を助けたいという想いから、印刷会社向け極小ロット印刷サービス「いんさつ駆込寺」を実現

ゴブス様では、どのような事業を行われていますでしょうか?
福田社長(以下福田): 広島エリアを中心に主に印刷会社への機械や資材の販売を行っている専門会社です。広島県の西部で市内、あと山口県などにも商圏を拡げています。今回、事業再構築補助金を活用して印刷会社さんに向けた極小ロットの印刷サービスを「いんさつ駆込寺」という名前で開始しています。
新たなビジネスに挑戦しようとしたのには、どのような経緯や想いがあったのでしょうか?
福田: 夢ですね。弊社の代表と話をしながら出てきた想いです。今まで印刷業界にすごくお世話になってここまで来ているんです。その業界で印刷会社さんがどんどん疲弊、衰退していくのを目の当たりにした弊社代表と何か出来ないかとよくディスカッションを交わしていたのが始まりです。今までは話をしただけで終わるばかりでしたがついに実際にやりましょうということになりまして、今回の事業を実現しました。
事業内容としてはニッチな極小ロット印刷物を集めることを提案し、最新の設備と資材を用意して自由にサンプル作りや製品の出力環境を提供する事業を考えました。ニッチと言っても極小ロット印刷物というは意外と多く、教育関係から公的機関、冠婚葬祭を取り扱う会社様など実は幅広く依頼が存在しています。しかし、現状の印刷会社さん側では対費用的効果また対時間的効果から利益に繋がりにくいことにより機材を揃えていないケースも多く、またお客様側では高い単価での発注となるため躊躇する傾向があり、発注側と受注側がお互いに歩み寄りづらい製作物なのです。そこで弊社が極小ロット印刷の出力に関する環境を整え、弊社を介して印刷物を仕上げていただく流れを作ることで印刷会社さんの懸念事項を解消し極小ロットでも受注しやすくなる環境を築けるのではと思い至ったのです。この方法が印刷業界を助けたいという代表の想いを受け継いで出来る仕組みであると考えました。仕組みは一人で考えてやったわけではないです。相談して面白いじゃないか、できることはやろうというところから始まり、意見交換とリサーチを重ねこの形を作っていきました。これが現在「いんさつ駆込寺」として動いているサービスです。
事業自体は補助金が通らなくてもやるつもりでいました。ただ、途中で代表が「補助金が通らなかったらやめるか」と言いだして(笑) 「いや、それはないでしょ!?」(苦笑)と、 そのような会話をしながら計画を進めていきました。
機械を導入することにあたって、準備段階で苦労した点はありましたでしょうか?
福田:オペレーション人材の確保にいろいろと動きましたね。今は募集しても来ないし、戦力になるまでどうしても時間がかかります。サービスを開始するにしても印刷業界のルールとか仕組みとかがわからないとうまく機能しませんから、そういった人材確保が大変でした。ですが、幸いにも良い方が見つかりまして機械のオペレーターを任せています。今回2名の雇用を行いましたが今後も様子を見ながら2~3名追加を行っていきたいと思っています。
業界のことだからわからないのが当たり前。話を交わして理解してもらうことの大切さに気づかされた。

フィールドマネジメントについてお聞きします。どのような理由でフィールドマネジメントを選ばれたのでしょうか?
福田:金融機関さんからも「新しい事業を始められるならコロナ禍での融資でタイミングよく事業再構築補助金がありますがいかがでしょうか?」という話を交わしまして、そこで金融機関さんから頂いたパンフレットから3社ほど選んで、一社一社ディスカッションを交わしました。
フィールドマネジメントさんは当初は難色を示しながらも食いつきがすごく、少しでも言葉を引き出して理解していこうという姿勢が印象的でした。
最初のディスカッションで実際にお会いしたとき、榎さんが若い方で実績のある方という点、女性も活躍されている会社ということも知って好印象でしたね。
そのような印象からフィールドマネジメントさんに依頼することにしました。
フィールドマネジメントとのやり取りで印象深いことを教えていただけますか?
福田:申請について先ほどの通り、最初は難色を示されたので依頼して大丈夫かな?と思っていたのですが、ディスカッションをしていく中で色々とわかってもらえたので最終的には採択できるように中身を引き出してもらえました。
こうしたやり取りの中でフィールドマネジメントさんが印刷業界の事情に、今考えれば他業種ですから当たり前なのですが、多くをご存知でないということに気づいたのですよね。
我々は先入観として知っている前提でお話をしていました。だから最初の難色も当然で、そこに気づいてからはわかりやすく伝えることでご理解いただけました。
話し合いを進めていく中で提出期限により追い込みもありましたがフィールドマネジメントさんには頑張っていただきました。
榎:当初申請が難しいと判断したところには、我々の印刷会社へ向けた固定観念がありました。
門外漢なわけですから説明を受けても印刷事業が印刷会社を顧客として扱うという考えになかなか理解が及ばず事業計画が把握しづらかったのです。
しかしディスカッションを重ねるうちに事業の仕組みが理解できて固定観念が無くなり、ゴブス様の事業計画をきちんと把握できたことで真に福田社長の想いの理解へと至りました。
そこからは絵にして言葉にして採択されるよう頑張らせていただきました。
福田:これまで色々されてきた中で、どのようにすれば採択されやすいのかというテクニックも垣間見えました。
計画書作成での数字周りことに関しては特に助けて頂きましたし、相談事のレスポンスも早かったです。
「駆込寺」というフレーズを出していただいたこともサービスの名づけの参考となりましたし、担当して頂いて良かったと思います。
榎:我々にとってはどの業界についてもわからないことだらけですから、お話を通じてどれだけ想いに共感できるか吸収できるかがすごく重要で、我々も勉強させていただきました。
福田:井の中にいると周りがみえないからそのことが当たり前になるじゃないですか。
でも業界に居るから当たり前なだけで他の人には言葉にしてもシステムにしてもそうではない。気づかされましたよ。こちらも助かりました。
印刷会社さんとお客様との繋がりを強化する手助けをし、印刷の力で地域経済活性を目指す
設備導入の新たなビジネスについてどのような変化を期待されておりますでしょうか?
福田:これから色々とやらないといけないという感じです。まずは弊社の営業の認識を変えてきました。
もともとは今あるルート営業しかなかったのですが、機械を導入したことから「色んなニッチな仕事を探しておいでよ」とか、あるいは「情報発信をしようよ」とか話をするようになりました。
また印刷会社さんの営業の方へセミナーを行うことによって、「こんな仕事もとれるんだね」と認識もらえるよう動いています。そうすることで印刷業界も発展する、そういうことを意識しながら始めました。
――そちらはすぐに変化がでてきましたか?

福田:徐々に、ですね。ですがそれによって営業のスタイルも変化がでてきましたね。
今度は営業担当の者にオリジナルの名刺を作っていいよと言っています。社名が入った名刺しか持っていないから自分が発信したいことを名刺に入れて作っていいですよと。
今のままでは新しいことも生まれないのです。きっかけとして自分の特技やそういうのを入れながら「新しい名刺が出来ました」とまた名刺交換していきます。そうしたら違うことが生まれるかもしれない。実際に会社の名刺もバリエーションを用意して変わりましたからね。
榎:それだけでもイノベーションですよね。新しい名刺を拝見させていただきましたが、社長の名刺に住職と入っているのが面白いですね。
福田:これ提案してくれたのが常務なんですよ。「社長だから住職ですよね」と。
『駆け込み寺』だからトップは住職だろうとのことで面白いと感じ採用しました。
この『駆け込み寺』というフレーズもフィールドマネジメントさんがやり取りから発案してくださり、それいいねと採用させていただきました。
こういうフレーズは全国でも何社かやっているのを知っていますが、でもそれは『一般のクライアント様に駆け込んでおいでよ』と印刷会社様が出しているものです。
弊社は印刷会社さんが駆け込んできてくださいということなので、同じフレーズでも違いがあります。
――B2Bでやられているということですね。先ほど営業向けのセミナーのお話がありましたがもう開催されていたりするのですか?
福田:セミナーは1回開催しています。見学としては10件を越え、仕事の依頼も頂いています。
児玉常務:セミナーについてはこちらに来ていただくこともありますし、私がお客様先へ出向いてお客様の営業会議の一コマで勉強会をさせて頂くこともできます。
実際に弊社へ来ていただいて、「こういう機械でこういうことができますよ」というのを一社やらせていただいて、それでその営業担当の方の意識も変わって「こういうこともいけるんだ」と関心を持ってくれました。
榎:すごく大事ですね。営業の意識が変わるって。
福田:そこが大事ですね。今はサンプルも作っている状態で、できることが全部できるようになったらチラシを作って印刷会社さんへ「これやりますよ、やりませんか?」と案内をする予定です。ただ一社ずつしかできませんから、そういう形で出来ればと思っているところです。
今後、企業としてどのようなことを目指していらっしゃいますか? そのための施策について計画されていることはなんでしょうか?

福田:今、機械1台ですけどもう1台入れようと思っています。デジタルオンデマンドプリンター、切り抜きプロッター、クリアファイル圧着機など設備を整えて、常に最新機種を回転させて印刷会社さんのお助けに徹する展開を考えています。同時に印刷会社さんがクライアント様を連れてきて頂いて新しい商品やサンプルを作っていきます。そして、そういう方達を集めて物産展を開きたいと考えています。
――物産展とはどういったものなのでしょうか?
福田:印刷会社さんのお客様はいろんな企業やお店があるじゃないですか。その繋がりのあるお客様の商品がPRできる展示会を行うということです。商品PRが趣旨の展示会ができれば新たに印刷会社さんへの発注が増えるんじゃないかなと。その場合、極小ロットでサンプル作りのできる弊社が力になれます。この展示会を印刷会社さんのお客様を集めて印刷会社さんや機械メーカーさんと一緒にやりたいと思っています。
出展にあたっては、この展示した商品については全部買い取る方針です。一括で買いますので出してくださいとお伝えします。まあ、あんまり高いものださないでねと(苦笑)
――他にない発想ですね。ゴプス様のお客様の先のお客様の発信のために行う場づくりと。
福田:この物産展の展示商品はなんでもいいのです。既存の商品でも新商品でもPRしてお客様に来ていただきます。我々は、印刷会社さんとお客様が繋がりを活かして、地場の新しい商品や隠れている優秀な商品を発掘して、地域の印刷会社さんの力で全国へ商品PRできるようになることを目指しています。このような場を作り上げることで、認知度をあげて新たなビジネス展開を行っていただければ、先ほどもお話したように新たに魅力的なPOP作りやサンプル作りといった後の印刷仕事に期待が持てます。
今まで、我々の展示会は全部印刷機械の展示会でした。印刷機を用意して印刷関係の製品を並べて印刷会社さんに向けてです。ですが、それはもう無理だろうと感じています。メーカー様もそんな体力もなくなってきていますし、そこは印刷会社様側も同様です。ですから機械の発注に繋がらないことも多い中、展示のために機械を持ってきてまた持って帰らないといけません。それも大変なので展示会の方向性を変え機械メーカーさんには機械出さなくていい代わりに、展示商品を買わないといけないから金銭面での支援をお願いといった旨で協力を仰ぎます。まずは顧客の需要を増やす。次に印刷機の購入に繋げる。といった先を見据えたお話すれば理解を示してくれるでしょうから、ご協力いただいてそういう形が出来たらいいなと。
こういった計画はすぐに利益のでることではないため印刷会社さんをはじめ理解していただくのには時間がかかるでしょうから、実際のところはわかりませんが、5年後くらいにはやりたいと思っています。
――すぐ直接的な利益になかなか結びつかない、そこは間接的に巡り巡って回ってくるのでしょうけれども、長い時間がかかることになるとそういう発想にはなりづらいですね。
福田:実際、長期的な展開を視野に入れた発想になりづらいと思います。近年はコロナもあって大変な時期ですから。ですが、それでも先の先があるでしょうと言いたいのです。もちろん、理解を示してくださる会社様もあります。ご理解いただいた方からは「そんなことをやってくれるのか」、「利用させてくれ」といった声もあり、そうして会員になってくれた会社様もいらっしゃいます。
そういった会社さんはすでに極小ロット印刷へ着手していただいており、実際に弊社のデジタル印刷機を使ってお客様へ直接納品する形のビジネスモデルも出来上がっています。我々の考える先を見据えたビジネスモデルの理解を広めるために印刷会社さん側だけでなく、この先より詳しい市場調査をしてニーズのある市場のお客様のところへ出向いていくことも考えています。
我々自らがお客様と印刷会社さんとの架け橋となるように段取りを含め動くことで印刷会社さんの負担を軽減し、極小ロット受注へ意欲的に動いてもらいたいと思っています。そうして、最終的には印刷の力が地域経済活性の一助となってくれれば思います。
榎:我々も申請して終わりではなく認定支援機関として5年間進捗のチェックをしていきますので、その5年後先のビジョンといいますかお聞きしてみたいのですが。
福田:正直、5年先というか将来はわかりません。はっきり言えば、まだわかってないけど何かしなきゃいけないことはわかっていて、その突破口として始めたというわけです。印刷会社さんや私たちのような卸販売会社含めみんな何かやらなきゃいけないとは思っているのですが、思っているだけでなかなか手を付けないのです。それでも私は何かを始めたということだけでもいいと思います。
一歩一歩始めて他の人を巻き込んで色々考えて、その中には印刷会社様の変わった仕事を受注するとかがあって、少しずつ良い方向へ変化していけばいいのではないでしょうか。ただ、そうはいっても利益を生まないといけないので、良い印刷サービスを提供できる経営を目指しています。
そして、一番はやっぱり代表とお話をしていく中で感じた、印刷業界のことをものすごく大事に想っていらっしゃるという心情。その想いは受け継いで大切にしていきたいです。それを実現できる形にして実行するのは我々がやらないといけないことです。